2010年12月3日金曜日

プロの中の一流のプロ

 私は、今年、元ロッテオリオンズのエースピッチャー 村田兆治さんの講演を拝聴する機会がありました。
 野球に詳しい方ならば、ご存知かと思いますが、プロ野球投手として、現役時代、一度肘を故障し、選手生命の危機を迎えられたこと。
当時日本人選手では、初めて筋肉移植手術にトライされ、見事リハビリを経て、マウンドの登板に復帰され、名球界入りとなる、通算200勝利を成し遂げたアスリートであります。
 
 現在、50歳を超えても、時速140kmのスピードで投球ができるということで、マスターズリーグのエースとしても知られております。

その講演を拝聴して、改めて思いました。この人は、選手として、人としてプロの中の一流のプロだと。
 独特の広島訛りの口調で、ユーモアも毒舌もあり、実際のまさかり投法もありの講演でした。
 あの年齢で、まさかり投法ができ、きちんと投げる球がコントロールできるというのは、もちろん身体をきちんと鍛えて、継続したケアがなければできないことです。

私が、この人は違うと感じるのは、ただ野球が上手い、野球馬鹿ではないとことです。
同じ様に、同時期に活躍された、野村克也さんや、故稲尾和久さん、福本豊さんも、共通点があるかと思います。
 
 この人も、逆境を克服するに当たって、頭と技を駆使し、戦略を立てて成功されたといういきさつを、講演ではユーモアを交えて、客観的に語られておりました。

 肘の故障から復活された後、当然リハビリ期間も長期間あります。
当然、相手はプロ選手同士の対戦ですから、気合だけで直球勝負は通用しないし、
 先発で登板して9回まで完投することも難しい。

 そんな中で、どうしたらということで考え付いた結果、身体全体をばねにして重心移動する、まさかり投法を生み出し、肘の負担を少なく球威のある投球術を武器にしました。

 そして、直球だけではなく、打者の手前でストンと急降下する、フォークボールを新たな武器として取得し、直球とうまく組み合わせて、打者をかく乱する戦略を上手く考え出しました。

当時のロッテオリオンズでは、リリーフ投手の数が少ないチーム事情ということもあり、一人の投手で完投できることは、チームにとっても長期戦に有利になります。

 これだけを聞くと、身体で覚えたというイメージを持ちますが、実はそうではないことが講演でわかりました。
 肘の故障で、ボールすら投げられない時期がありました。今の村田さんからすれば信じがたいですが、本業のマウンドに立てないことが続き、精神的にも追い詰められてしまった時期もあったそうです。
 転機になったのは、あるお寺の住職さんの言葉だったそうです。当時リスクの大きかった肘の手術に、前向きに踏み切った切っ掛けにもなったそうです。
 
 手術後のリハビリで、まず、肘や肩の負担を少なく、きちんと狙ったところにまっすぐ投げるにはどうすればいいか?というのを、いろいろ、考えて、試して、ビデオで撮影して、スポーツ医学の先生の客観的な意見を聞いて、すべてノートに記録していたそうです。

 当然、投手の体型やバランスはそれぞれ違いますので、どれが一番適しているかというのは、ひとそれぞれです。

 その中で、きちんと体重移動での勢いを、肘に負担をかけず、ボールに伝えるということで、あの独特の方法に行き着いたそうです。

 次に、まさかり投法は、足腰の重心バランスがしっかりしていないと、ボールをリリースする位置がぶれ、思ったところにボールが行かなくなります。

 そのために、身体の土台となる足腰を、バランスよく鍛える準備は欠かせなかったと言います。
 練習で、まさかり投法で遠投をするのも、きちんと球威のある球を投げられるようにするためだったそうです。

 もう一つの武器フォークボールも、ボールに力がぶれずに伝わる投球ができるからこそ、
変化球の回転がよく伝わり、打者の手前ですっと変化する球が、安定して投げられるようになったそうです。
 それも客観的に、頭をつかって考えて、変化球を武器にしようと取得されたとのこと。
 
 それを上手く組み合わせれば、打者は打つタイミングをかく乱されますので、投手が優位の
ペースで投球ができるようになります。
頭を使って、次に何を投げるかわからないように出来るわけですから。

 実際、村田さんは、投球数が少なくて、完投勝利が多い投手でした。バッテリーとして受ける
袴田捕手も、村田さんとはあうんの呼吸で欠かせない存在で、チームプレイに生かされていました。

 この人が素晴らしいというのは、講演を拝聴した素人の人と、キャッチボールをする際に、
きちんと、ボールを受ける相手に、自分の言葉で、ここに投げるから、客観的にどの位置に手を構えればよいというのをわかりやすく伝える。
 例えば、両手を胸の位置に、まっすぐ伸ばしたところで、受けるように投げるので、そのままの位置で動かずに構えてと。

 また、相手が投げ返すときに、コントロールがずれると、腕の位置をもう10cm、手のひら一つ右に、というように伝えて、もう一回やってできるように、適切な説明でアドバイスができること、それをできるまで、付き合って投げさせることです。

 プロ野球の解説者の大半は、感覚的、主観的な解説が多いイメージがありましたが、
この人は自分の言葉で、きちんと、相手にわかるように、客観的にアドバイスができるプロ中のプロ選手。

 それを、相手の投げる動作の中で、一瞬の中で、一つ一つの動作を、客観的にきちんとみて、
どうすればよいかを言えるのだから、一味違う。

 だから、あれだけの実績を、長期間にわたって活躍できたのも納得です。

 実際、現在、村田さんは、野球を見に来る機会が難しい、離島の少年達に、野球というチーム競技の楽しさを教えることを、ライフワークとされています。

 以前、NHKの番組で拝見したことがありますが、今回の講演同様に、自分の言葉でわかりやすく
、相手ができるまで、付き合うというのが基本でした。

 もちろんその活動は、手弁当のみでボランティア的な活動で、非営利でやっているそうです。
当然、村田さんの活動に賛同された、元プロ選手も同行するようになられたそうです。

 その成果として、祈願であった、離島同士の野球チーム大会が開催できるようになったことを、大変喜ばれておりました。

 現在も、ライフワークは、講演も含めて、また、マスターズリーグの投手として継続されております。私も一度、マスターズリーグで村田さんの投球を拝見して、改めて驚いた身です。
 
 もちろん、教えるにも、きちんと自分の準備や練習は怠らないそうですし、行き先のことも
相手のことも、事前によく頭に入れて準備されているそうです。

村田さんは、プロ選手 イコール 職人というのとは格が違う、
壁にぶつかった時に、頭を使って、乗り越える戦略を考えて成功した一流のプロ。

 引退後も、自分の利点や実績を、上から目線でなく、相手目線でみて、つきあって、
社会に上手く貢献できないか、そこも戦略を考えてやってこられた人。
やっぱりプロ中のプロ、人生の先輩としての偉大さを感じます。

私にとって、有意義な講演会でした。

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